2011年3月25日金曜日

新聞記者の良質な魂

朝日新聞大阪本社の社会グループ、板橋洋佳記者から一冊の本が送られて来た。まだできたてほやほやの新刊である。
「証拠改竄ー特捜検事の犯罪」(朝日新聞取材班)。
私は、板橋記者とは直接面識はない。ないが、一度番組で村木厚子さんの冤罪事件を取り上げた際、大阪地検特捜部の主任検事が証拠を改竄していたことをスクープした板橋記者について言及したことがある。
私の記憶では板橋記者は朝日新聞生え抜きではなく、地方紙、下野新聞から2007年2月に朝日に中途入社した記者である。私の付き合って来た朝日の記者で泥沼の中を這いずり回るような事件官庁担当記者は転職組が多かったという印象がある。彼もまたその転職組だった。
「証拠改竄」の本は一晩で読了した。私は今、がんの本を執筆中である。本なんか読んでいる場合じゃないんだけど、読まずにはいられなかった。
本は大阪地検担当の記者になった板橋記者が村木厚子さんが逮捕・起訴された郵便不正事件の公判の途中から疑問を持ち取材を進め最後は主任検事のフロッピーディスク改竄を突き止め、新聞でスクープを放ったプロセスをドキュメントでたどったものだ。
この本は単に勝った、勝ったという自己賛美の本ではない。47歳の父を肺癌で、52歳の母を全身転移の癌で失っている板橋記者の心の内も描かれている。また、完全保秘態勢で取材にあたり、自らも検察庁に逮捕されるかもという覚悟で臨んだ取材班の苦闘も描かれ、大変興味深い。
ただひとつ注文があるとすれば、事件の本質は検察庁のストーリーに合わせて密室で供述を取っていく、今の検察のあり方が問われているところにあるのだと思う。冤罪を生み出す構造にもう少し焦点を当てて欲しかった。それは可視化の問題につながるものだろう。とにあれ板橋記者にお礼とエールを送りたい。